海外在住の保護者の罠と階段の踊り場の話
2017年7月27日
海外在住であることをメリットと捉えられない保護者
10年ほど前の生徒、海外に住んでいる子がいました。今も生徒で海外在住の子は多いんですが、その子の親も例に漏れず、日本在住の子どもとの教育環境の差をひがんでいました。そして「いくら一生懸命勉強しても、こんな環境じゃ国語力なんて付かない」と言っていました。その子は日本人があまり住まない地域に住んでいたので、補習校すらなく、私の教材だけが唯一の日本語教材でした。たしかに、語彙数は圧倒的に海外在住の子の方が少ないです。一日のうちで目にする日本語が極端に少ないのは事実。そしてたまに帰国した時に、日本の塾のテストを受け、自分の子は平均点以下だと嘆くんです。
子どもは確実に日々進歩している
確かにその子は、最初のうち、ひらがなだらけ、誤字だらけでした。語彙も少ないのでうまく自分の考えを書けませんでした。400字詰め原稿用紙に2行しか書けませんでした。しかし、毎日新しい言葉を覚え、慣用句やことわざも覚えました。私が表現方法も教えたので、だんだんと意見文のようなものも書けるようになってきました。特に、量が書けるように。原稿用紙に2行ぐらいしか書けなかったのに、6年生の終わりには、原稿用紙2枚ぐらいは書けるようになっていたのです。
確かに、それでも同じ6年生、日本の中学受験をするような子どもたちと比べると、書いてある内容は少し幼いです。では、その子は成長していないのでしょうか? 答えは「いいえ」ですよね。
その子は、国語だけでなく、国語で培った思考力を英語でも使い始め、ちゃんと成長していました。私はこの子は本当にバイリンガルになるだろうなと感じていました。でも、お母さんがいちいち比較するんです。日本の平均と!(笑)
階段の踊り場
お子さんは階段を上っています。他のお子さんも上っています。これは競走ではありません。目的は子ども一人一人が今より一段でも上に行くこと。どの子もみんな階段を一段ずつ上っています。みんな昨日よりも確実に上にいます。転んだとしても、それで痛みを知った子どもは、後退なんてしていません。転べば転ぶほど成長するんです。そのことは、大人でも分かると思います。
階段には踊り場があります。ずっと階段だけだと上るのが大変ですからね。そこでも子どもは、次のステップの始まりまで歩いています。または、ちょっと休んで体力を蓄える子もいます。高さで考えると、その子は昨日と同じ位置にいることになりますが、成長をやめたわけではありません。
ところが時々お母さんが「ほら、あの子を見てごらん。もうあんな上にいるよ」と言うんですよ。そうすると何が起きるか。子どものやる気が少しだけ減るんです。それでも子どもは成長をやめません。本当に偉いですよね。私だったらそんなふうに言われたら階段を降りますよ(笑)
子どもは親が認めてくれる方が安心し、そして伸びる
他のみんなががんばるという時期があります。すると、がんばりがその「みんな」よりちょっぴり少ない子の成績はまるで下がったかのように見えます。しかしスタート地点を見て、その子が毎日上がってきたことを親が認めてあげなくては。特にその子が踊り場で体力を蓄えている時こそ、親の力の見せ所。じっと見守ることができたら、大成功です。
特に受験生のお母さん、夏を過ぎた頃から、急に成績が伸び悩むかもしれません。それは、みんなが頑張っているので、「比較すると」そう見えるだけです。お子さんが焦っているところに、そんな尺度で評価しないでくださいね。
そして、海外在住のお母さん。日本の生徒と比較すること、特にたま~に帰国して日本のテストを受けてしまい比較することはおすすめしません。デメリットばかりに目を向けず、むしろ、海外在住では何が有利なのか考えてみてくださいね。そして親が認めて安心して伸びた時、どんなに素晴らしいことになるか、思いを巡らせてください。